『われわれの語る世界』 訳者解題


 この「われわれの語る世界」は、新聞・雑誌記事の純粋な引用によって成り立っているが、一見雑多なそれらの引用文も、「孤立の技術」とか「意志と表象としての都市計画」というようなユーモアの利いたタイトルと、SIによる鋭い解説によって、現代世界の不条理をいろんな角度から暴露するものとなっている。こうした形式は、シチュアシオニスト・スタイルとも言えるもので、SI以前のレトリスト・インターナショナル(LI)の機関紙『ポトラッチ』にすでに「今週のベスト・ニュース」というタイトルでその週のばかげたニュースが毎回掲載されたり、『アンテルナシオナル・シチュアシオニスト』誌 第5号の「SIについての今年の世論」や第8号の「噂の選集」などでも試みられていた。あるいは、『アンテルナシオナル・シチュアシオニスト』誌 各号の挿し絵(ピンナップ・ガールや核シェルターなど)やワインやTVの広告の転載なども現代社会のスペクタクルを批判的に意識させる優れた装置として機能している。こうしたシチュアシオニスト・スタイルは、既存の要素を「環境のより高度の構築に統合すること」とSIが定義する「転用」の手法の応用である。「転用」の手法は、絵画や映画、文学などに用いられ、のみの市で手に入れた絵の上に異様な形態を描き加えたアスガー・ヨルンの「転用絵画」や、既存の映画フィルムをつぎはぎして別のナレーションを付け加えた『スペクタクルの社会』などのドゥボールの映画、既存の小説の文章を解体して並べ替え、まったく別の物語を生み出すベルンシュタインの『王さまのすべての馬』やシル・ヴォルマンの『私はきれいに書く』などがあるが、「われわれの語る世界」もまた、「転用」の技術を「プロパガンダの方法」として用いた例だと言えるだろう。